DCF法は、評価対象会社が将来獲得するであろうフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を適切な割引率で現在価値に換算して株主価値を分析する算定方法です。
今回は、DCF法による株主価値の算定のおおまかな流れを見ていきたいと思います。
DCF法による株主価値の算定を行う前に、まず、事業価値、企業価値及び株主価値の定義について触れたいと思います。これら3つは以下の関係にあります。DCF法では、まず、将来のFCFを割引計算することで、この事業価値(事業に供している資産及び負債の時価)を算出します。
■事業外資産
(例)余剰現預金、有価証券、遊休不動産、貸付金など
■有利子負債等
(例)借入金、社債、リース債務、退職給付債務など
FCFは税引後営業利益(NOPAT:Net Operating Profit After Taxes)に減価償却費を加算し、設備投資額及び運転資本増加額(売掛金などの営業債権、商品及び仕掛品などの棚卸資産、買掛金などの営業債務によって算出される運転資本の増加額)を減算することで算出します。なお、NOPATに対して、減価償却費、設備投資額及び運転資本増加額の3つを調整する理由は、損益ベースからCFベースに換算することにあります。なお、FCF算出に用いる事業計画には、向こう3~5年のものを使用するケースが多いです。
|
X+1期 |
X+2期 |
X+3期 |
X+4期 |
X+5期 |
---|---|---|---|---|---|
営業利益 |
1,000 |
1,500 |
2,000 |
2,300 |
2,500 |
法人税等(△) |
350 |
525 |
700 |
805 |
875 |
NOPAT |
650 |
975 |
1,300 |
1,495 |
1,625 |
減価償却費(+) |
120 |
180 |
220 |
240 |
250 |
設備投資額(△) |
200 |
240 |
210 |
220 |
245 |
運転資本増加額(△) |
100 |
110 |
135 |
150 |
155 |
FCF |
470 |
805 |
1,175 |
1,365 |
1,475 |
上記で算出したFCFを現在価値に換算するために割引率を算出します。DCF法では、資本コストと負債コストの加重平均資本コスト(WACC)を用いて、FCFの割引計算を行います。
項目 |
数値 |
リスクフリーレート:① |
0.10% |
マーケットリスクプレミアム:② |
6.00% |
ベータ値:③ |
1.05 |
資本コスト:④=①+②×③ |
6.40% |
負債コスト:⑤ |
2.00% |
実効税率:⑥ |
35.0% |
負債コスト(税効果考慮後):⑦=⑤×(1-⑥) |
1.30% |
自己資本比率:⑧ |
80.0% |
負債比率:⑨ |
20.0% |
WACC:④×⑧+⑦×⑨ |
5.38% |
|
X+1期 |
X+2期 |
X+3期 |
X+4期 |
X+5期 |
FCF |
470 |
805 |
1,175 |
1,365 |
1,475 |
現価係数 ※ |
97.414% |
92.441% |
87.721% |
83.243% |
78.993% |
FCF(現在価値) |
458 |
744 |
1,031 |
1,136 |
1,165 |
※ WACC=5.38%を用いて計算。なお、算出に際しては期央主義(FCFが各期の中間点にて発生するという仮定)を採用している。
上記4にて算出したFCF(現在価値)の合計に、X+6期以降の価値(継続価値、TV:Terminal Value)を加算することで事業価値を算出します。
TVの計算方法には、永久成長率法やEXITマルチプル法が用いられます。これらの詳細については、今回は割愛しますが、前者がX+6期以降も一定の成長率でFCFが発生するという仮定を置いてTVを計算するのに対して、後者は類似上場会社のEV/EBITDA倍率などの指標を用いて評価対象会社のTVを相対的に計算する方法になります。
上記5にて算出した事業価値に事業外資産(余剰現預金、有価証券、遊休不動産、貸付金などの事業に供していない資産(上記4で算出したFCFの創出に寄与していない資産))を加算し、有利子負債等(借入金、社債、リース債務、退職給付債務など)を減算することで株主価値を算出します。
なお、算出した株主価値に対して、取引内容を勘案し、非流動性ディスカウントやマイノリティディスカウントを考慮するケースがありますが、詳細については、また別の機会にご説明します。